「ブタの丸焼き、七十一名通過ー!」










ゴオォォンッとメンチの叩いたドラの音が辺りに響き渡った。が、あんなものあったんだ、とその時初めてドラの存在に気付いたのはご愛嬌。七十一名が合格した、という事はブハラは七十一頭のブタを食した事になる。実際その通りで、ブタの丸焼きを持ってきた受験生はも含めて七十一名。そのブタの丸焼きを美食ハンター・ブハラは完食したのだった。













「あ、クラピカ」


「良かった。無事に合格したのだな」


「当然」


「お、


「皆合格おめでとー」


「って言っても、まだ終わってないみたいだけどね」










人込みの中、クラピカがの元まで歩いてき、その後ろから他の三人も歩いてきた。キルアの言葉に、そうだね、と続けて試験官二人の方を見る。先程気付いた事。それは試験が二次性になっていた事。ブハラの指定した料理に合格したものだけがメンチの指定した料理を作れる。さて、次は何が出てくるのか。










「それにしてもよ、。一体何処に居たんだ?」


「何処って、普通にそこら辺だけど?開始直後に皆一斉に走り出しちゃったじゃない?その時に皆の位置解らなくなっちゃって」










だから、一人でそこら辺のブタを捕まえてたんだ、と続ける。本当の事は口が裂けても言えない。グレートスタンプの気配を察知し、その場に残り毒性のナイフで仕留め、念で調理した等とは口が裂けても言えない。










「クラピカの奴な、すんげー必死にお前の事探してたぜ」


「えー、うっそだー」


「まじまじ」










レオリオに耳打ちされた言葉に疑惑の言葉を返す。まさか、そんなわけないだろう。何故クラピカが自分の事を必死になって探したりするんだ。理由が無い。レオリオの見間違いではないんだろうか。










「……聞こえているぞ、レオリオ」


「げっ」


「余計な事は言わなくていい」










ぎゅむっとクラピカがレオリオの足を踏む。この感じからすると、レオリオの見間違いではないようだ。目の前の金髪の少年はレオリオの言う通り試験中、自分を探してくれていた。では、何故。そこまでする理由は何だ。クラピカ、と少年の名前を呼ぶ前に試験官から次の課題が発表された。










「私の指定料理は……










 
スシよ!










その言葉の直後、会場の受験生達は一斉にざわめき始めた。そこら中からスシに関しての疑問が聞こえる。それは自分の周りの彼らも同じ様で。全員スシに関しての意見を述べている。











「スシ?スシなんか聞いた事もねえぜ」










それは単に貴方が本を読まないだけでは、とはレオリオに向かって胸中呟いた。それらしい文献を読めば、スシに関しての姿形、味、調理法等は一通り記されているのだから、解らないという事はないだろう。そして自分はその文献を以前に読んだ事があった。そしてスシの実物を見た事も、そして作った事もあった。毎度毎度珍しいものを求めてくる団員達(特に団長の座にいる男)に満足させる様な珍料理をと一緒に探したものだ。お陰で今ではスシ以外にも古今東西のあらゆる珍しい料理が作れるようになった。










「ヒントをあげるわ。中を見なさい!」










そう言って建物の中に入っていったメンチの後に続いて達受験生も建物の中へと進む。中には沢山の者達が一斉に調理出来る様に流し場が多くあり、一つの流し台にまな板や包丁、既に炊いてあるご飯やしゃもじ等が一式置かれていた。メンチは必要最低限のものは揃っている事、そしてヒントやら何やらを言った後、試験開始の合図を言い放った。確かに。スシを作るのに必要なものは全て揃っている。後必要なのはスシに欠かせない魚だ。魚はそこら辺の川にでもいけば楽々取れそうだ。










「(あれ、あのハゲ……)」










スシに関してまだ考えているクラピカ達の奥。一人間抜けにも『自分はスシを知っています』と言いたげに周りを見回している人物を発見。他の受験生の作っている間違ったスシを見ておかしそうに忍び笑いをしている。それを見てだけではなく他の受験生達もハンゾーがスシを知っている事に気付いた。










「(あのハゲ、馬鹿としか言いようがないんだけど…)」










はあ、と小さく溜息をつく。ハンゾーは確か"忍び"、とかいうものだった筈。忍びは自分達情報屋と似ている職業。情報を集めたり、時には戦ったり。けれど決して表舞台には現れない。それが忍びなのだと何かの文献に書いてあった。だが、今この場に居る忍びは馬鹿としか言いようがない忍びだ。感情を表に出さないのも忍びの仕事の筈なのだが、ハンゾーは全くもってそれをしていない。あれはわざとやっているのか、それとも素なのか。どちらにしても愚かな行為には変わりない。










「(あの人と話す機会があったら、リー●21に行った方がいいですよって言ってあげよう)」










あそこに相談すればきっとあの寂しい頭にも直にふさふさの髪が生えてくる筈だ。が一人腕を組んでうんうんと頷いていると横から大きな声が上がった。










「魚ぁっ?お前ここは森の中だぜ?」


「声がデカイ!魚なら川とか池にもいるだろうに!」










レオリオの声の後にスコーンッと何かが何かに命中した直後にクラピカの怒声とも思える声。その見事に命中した何かはポスッとの手の中に落ちてきた。後の祭りとは正にこの事。クラピカが、あ"…、と言って辺りを見渡すと其処には目を光らさんばかりの受験生達。そんな光景を見ては溜息を一つ。レオリオはともかくとしてクラピカまでこんな失態をするとは思わなかった。まあ彼の場合はレオリオに釣られてしまっただけだろうからしょうがないと言えばしょうがない。魚ぁぁっ、と獲物の名前を雄叫びの如く言いながら猛スピードで走っていく受験生達の後をレオリオが追い掛けたのでクラピカともそれに続いた。










「(にしても今のスシネタって殆ど海鮮魚が主流だと思ったんだけど?)」










川や池等でとった魚があの美食ハンター・メンチの口に合うのだろうか。彼女自身も海鮮魚が今のスシの主流だと解っているだろうに何故この課題にしたのだろうか。試されている、のか。それならそれで面白い。少しだけある料理のプライドが燃え上がるというものだ。










「(でも魚だけじゃやっぱ不安だからアレ使わせてもらお)」














Lustiges Kochen
究極の料理人














「食えるかー!」


「あっ、テメェ!何も放るこたぁねえだろ!」










他の受験生達よりも大分遅れて会場に戻ってきたが真っ先に見たものは試験官が受験生の出した料理をペイッと放り投げている様だった。否、待て。果たして今投げられたあれが料理と言えるのだろうか。あんなものを出されれば自分だって同じ事をするに違いない。見た事もない魚を数匹生きたまま大きな丸くしたご飯に詰めてある。こうとしか形容できないものだった。あれがレオリオの考え付いたスシならば彼はこの試験どう頑張っても合格できないだろう。










「ただいま」


、随分遅かったのだな。捕まらなかったのか?」


「あははー、もう全然。やっと一匹ってとこ」










そう言って釣ってきた魚を自分のまな板の上に置く。周りを見ると自分以外はもう既に調理に入り始めている者、魚を目の前に悩んでいる者さまざまだった。その者達が釣ってきた魚もレオリオのと同じで見た事のない、中にはどう考えても魚ではないものまであった。










「(皆あれをどうやって調理するつもり……)」










だが川や池等で釣れる魚の種類にも限界があるからしょうがない。かくゆう自分も何とか文献で見た事のあって、尚且つスシに使えそうな魚は一匹した捕まえる事ができなかった。まあ、自分は寄り道をしていた所為もあってそこら辺で簡単に捕れてスシに出来そうな魚殆どとられてしまっていたからでもあるのだが。そしてその寄り道して取ってきたものを調理する場所がない事に今更ながらに気付いた。










「(しょうがないなー…)ちょっと外行って火使って調理してくるね」


「もしかしてスシは火を使って作るものなのか?」


「ああ、別にスシを作りに行く訳じゃないよ。私が作りに行くのは添え物程度のもの」










そう言いながら流し台の下に備え付けられている棚を漁る。案の定、其処にソレ等はあった。これがなければ火があっても調理が出来ない。ちゃんと出してなくとも置いてあるところは流石ハンター試験。










「それ等を使うのか?」


「そ。じゃあ、超高級の添え物作りに行ってきまーす」











そう言ってクラピカに背を向けて外へ足を向かった。途中、ゴンの料理までもがメンチに放り投げられているのが目に入って苦笑い。あれも到底スシとは言えない。あの料理はレオリオとそう大差はないだろう。










「おや、どうかしたのですか?」


「あれ?降りて来て大丈夫なんですか?」


「今なら大丈夫でしょう」










外に出て建物の隅の方に行くに声をかけた人物は、木の上に隠れた筈のサトツだった。サトツの答えに、そうですか、と言いながらその場にしゃがみ自分の前にだいたい直径三十センチくらいの円を張る。そして先程作ったブタの丸焼きの時同様にポケットからマッチを取り出し火を点ける。その火はやはり先程同様に風に運ばれるようにマッチから離れ地面すれすれのところへ移り燃え始めた。その場には薪も枯葉も何も無い。けれどちゃんと炎は燃え続けている。










「良い能力ですね」


「ありがとうございます」










持ってきたお椀の中に捕ってきていた卵を割って菜箸で解き解す。続いて燃え続けている火の上にこれまた持ってきていたフライパンをのせ、そのフライパンに調理用油を引く。










「その卵は……」


「そこら辺に落ちていたので」










にこりと営業スマイル一つ。それ以上は何も聞いてくるな、というオーラも含めての人工的な笑顔だ。自分が捕ってきた卵とは、この直近くに存在するマフタツ山に生息しているクモワシの卵。美食家でも売買の際は結構な値段がつく程の食材だったりする。目の前の卵がそこまでの食材だとは解らなくともここら辺一帯に卵を捕れる場所は皆無に等しい。それを知っているサトツだからこそ疑問に思うのだった。何処で卵なんかを手に入れたのか、と。勿論サトツが何を聞きたがっているのかは十分承知している。だが、わざわざ此方の手の内を説明する義理はないだろう。今は違くともこの先何時敵になるか解らないのだから。










「それにしても…それがスシという料理ですか」


「あれ?サトツさん知らないんですか?」


「ええ。東の最果てにある島国に存在するという事だけしか」


「これはどう見ても厚焼き玉子ですよ?」










今自分が作っているのはどう見てもスシには見えない。まあ、スシを知らない者からして見ればそんな事は全く解らないのだから。形も味も解らないのが未知の料理の恐ろしいところ。丁度作り終えた添え物程度でありながらも超高級な厚焼き玉子をお皿に移して後片付けに入りながら言葉を続ける。










「これはスシと一緒に提出しようと思ってるものです。スシはこれとは形も味も似てませんって」










まあ、私の作ったスシを影からこっそりとでも見て頂ければどんなものなのか解りますよ、と言ってはその場を後にして建物内に戻った。建物内では受験生達の作り出す様々な奇天烈な"スシ"にメンチが段々と苛立ってきているところだった。自分の所定の位置に戻る際にキルアの作った料理が投げられたのが見えた。そしてその後に少々、意気消沈したヒソカとすれ違った。すれ違いざまに見えたヒソカの料理は投げられたキルアの料理と同じだった様な気もする。










「さてと。それじゃ、本題のスシを作りましょうかね」










遠目にクラピカの作ったスシが投げられ、レオリオと同じだとメンチに言われたクラピカがショックを受けていたのが見えた。それを、ドンマイ、と胸中で呟き更には少しだけ同情してしまった自分に苦笑いしながらも美食ハンター・メンチの出した課題のスシを何とか作り上げた。それを作ってきた厚焼き玉子と一緒に皿に盛り付ける。これだけの状況でここまで美味しそうなスシが作れる自分に拍手がしたい。味も自信作だし、これで合格点が貰えなければ本気で泣くしかない。出来た料理を持ってメンチの元までいく途中、肩を落として戻ってくるクラピカと会った。










「クラピカ、大丈夫!レオリオよりクラピカの方がまだスシに近かったから」


「そ、そうなのか?」


「うん(ま、大きさ的にだけど…)」










言ってはなんだが、クラピカの作った料理もレオリオとそう大差はなかった。遠目からと言ってもハッキリとその料理は見えた。確かにアレは同レベルだろう。










「その…はスシを知っているのか?」


「まあねー。前は結構頻繁に作ってたし」










初めて団員の前に夕食として出した時にかなり気に入ってくれたのか、それから数週間くらいは毎日スシを作らされていた気がする。スシを人数分、しかも個人の好きなネタを握らなければならないので、流石に一ヶ月を過ぎた頃になってくると疲れてきたので今はもうあまり夕食には出さないが。スシが夕食に出てこなくなって文句を言いに来たノブナガとウボーには一睨みお見舞いしてやった。それを見ていたシズクが『、鬼の顔になってるよ』と言ってた様な気がする。










「では、それが?」


「うん。メンチさんと私の思ってるスシが同じなら、これであってる筈」










この世界は広いのだから、自分の知らないもう一つのスシがあってもおかしくは無い。もしかしたらメンチの言っているスシは自分が思っているスシではない可能性だってある。だが、握りスシと聞いて思いつくのは自分の中ではこれしかない。このスシに望みを託すしかないのだ。メンチの元まで来てコトリ、と机の上に蓋のしてある皿を乗せる。










「お口に合うか解りませんが…」










そう言って蓋を開けると、皿の上に乗っているものにメンチの顔が綻んだ気がした。やはりこれであっていた。これで確信は持てた。スシの形は合格だろう。問題は味だ。このシングルハンターがスシの見た目だけで合格点をくれるとは到底思えない。過去何度かの依頼の時に感じた彼女の性格上からみた結果がそれだ。わざわざ念を使ってまでクモワシの卵を捕りに行ったのはこの為だったりもする。










「どれどれー……」










メンチは素手でスシを持ってまじまじと四方八方から眺めた後そのまま口に運んだ。スシを飲み込んで一瞬間を空けた後に今度は箸で厚焼き玉子を掴み、スシ同様にまじまじと眺めてから口に運んだ。味に自信があるのは本当だが、あくまでも自分の舌での話しであり。美食ハンターからしてみれば、不味いのかもしれない。否、自分の舌だけではないが。スシを食べた旅団のメンバーは全員"美味しい"と言ってくれていた。あの味に煩いクロロもそれは同じ事で。彼等全員に美味いと言わせた自分のスシを信じたいがやはり少し不安である。知らず知らずの間にメンチの方を凝視していた様で、メンチと目が合った時には内内心一瞬焦った。










「……一つ聞くわ。この卵、どうしたの?」


「企業秘密です」










サトツの時と同様に、二コリと深入りは拒絶するという意味の念を込めた営業スマイルを顔に貼り付ける。自分の周りに円を張り、念を発動させる。風を操り空を飛んでマフタツ山まで行き卵を捕ってきた。説明するのは簡単だが、やはり彼女も敵にならないとは言い難い。こちらの手の内は明かさないに限る。そう、とだけ言った後メンチが放った言葉に会場中がざわめくまで後数秒。










「受験番号札一番。二次試験、合格よ!


















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08.04.29 修正完了